前回 #06 では、Raspberry Pi Pico のケースとホイールを作りながら、はめあいとすき間(クリアランス)を学びました。部品どうしが「ちょうどよくはまる」感覚がつかめたところで、今回はいよいよ動きを伝える部品——歯車(ギア)に挑戦します。
歯車は、モーターの回転を車輪や爪に伝えるための、ロボットの心臓部です。そして「自分で歯車を一から描く」と聞くと、あの複雑な歯の形に身構えてしまうかもしれません。でも安心してください。FreeCADには歯車を自動で作る機能が標準で入っていて、私たちが決めるのはたった2つ——「モジュール」と「歯数」だけです。今回は、その2つの数字が何を意味するのかをていねいに理解しながら、かみ合う2枚の歯車(減速ギアペア)を設計します。
そして章末課題では、第2部のゴールであるグリッパー(物をつかむ手)の心臓部、左右の爪を同期させるギアペアを自分で設計します。自分で決めた歯車が、画面の中できれいにかみ合って回る——その瞬間を目指しましょう。

歯車の言葉を覚える——3つの円とモジュール
歯車の設計は、複雑そうに見えて、実は3つの円とモジュールというひとつの数字でほとんど決まります。まずは用語を整理しましょう。

- ピッチ円:歯車の「実質的な大きさ」を表す基準の円。歯車どうしは、このピッチ円がちょうど接する位置で回ります。設計の主役です。
- 歯先円:歯の先端を結んだ、いちばん外側の円。ピッチ円より少しだけ大きい(モジュール1つぶん外側)。
- 歯元円:歯の根もとを結んだ、いちばん内側の円。相手の歯先がここに当たらないよう、少し深めに作ります。
- モジュール(m):歯の大きさを表す単位。次の節でくわしく説明します。
- 圧力角:歯の傾きを表す角度。標準は20°。歯車どうしをかみ合わせるには、ここをそろえる必要があります。
この中でいちばん大事なのがピッチ円です。歯先や歯元はピッチ円から自動的に決まるので、私たちは「ピッチ円をいくつにするか」だけを考えればよいのです。そして、そのピッチ円を決めるのがモジュールと歯数です。
モジュール m が「歯の大きさ」
モジュールは、歯車の歯の大きさを表す、いちばん基本の数字です。次の式で、ピッチ円の直径 d が決まります。
ピッチ円の直径 d = モジュール m × 歯数 z
たとえばモジュール2・歯数12なら、ピッチ円は d = 2 × 12 = 24mm。歯数が同じでも、モジュールが大きいほど歯も歯車全体も大きくなります。

ここがいちばん大切なルールです。2枚の歯車をかみ合わせるには、モジュール m と 圧力角 を同じにそろえなければなりません。歯の大きさ(m)と傾き(圧力角)がそろっていないと、歯がうまくかみ合わず、ガタガタになったり回らなかったりします。逆に言えば、モジュールと圧力角さえそろえれば、歯数のちがう歯車どうしを自由に組み合わせられます。
ロボット用の小さな歯車では、モジュール1〜2あたりがよく使われます。今回の本文では、3Dプリンタでも歯がしっかり出るモジュール2を使います。
中心距離——2枚の歯車をどれだけ離すか
歯車を2枚かみ合わせるとき、軸と軸をどれだけ離して置くかがとても重要です。この距離を中心距離(CD)と呼びます。中心距離は、次の式で決まります。
中心距離 CD =(z1 + z2)× m ÷ 2
これは「2つのピッチ円の半径を足したもの」と同じです。今回の本文ペアは、ピニオン(小さい歯車)z1=12 と 大ギア z2=24、モジュール m=2。計算すると——
CD =(12 + 24)× 2 ÷ 2 = 36mm。つまり2本の軸をちょうど36mm離して置けば、2つのピッチ円が接して、歯がきれいにかみ合います。

この36mmという数字が、あとでロボットのフレーム(軸の穴の位置)を決めるときの基準になります。歯車を設計するということは、軸の位置を設計することでもあるのです。そして、この距離が少しでもズレると何が起きるのか——それは後ほど「干渉チェック」で確かめます。
FreeCADで歯車を作る
用語と式がわかったところで、実際にFreeCADで歯車を作ります。ワークベンチは前回と同じPartDesign。うれしいことに、FreeCAD 1.1 にはインボリュート歯車を作る機能が標準で入っています(追加のインストールは不要です)。歯のあの複雑な曲線(インボリュート曲線)を、自分で描く必要はまったくありません。
① インボリュート歯車を呼び出す
Bodyを作ったら、メニューの「パートデザイン」からインボリュート歯車を選びます。すると、歯車のパラメーターを入れる画面が開きます。決めるのは基本的に上の3つだけです。
- 歯数:ピニオンなので 12。
- モジュール:2.00mm。
- 圧力角:標準の 20.00°(そのまま)。

数字を入れると、その場で歯形が画面に描かれます。「歯先のたけ係数」「歯元のたけ係数」などの細かい項目はありますが、最初は標準値のままで大丈夫です(歯先1.0・歯元1.25・圧力角20°が一般的な標準)。「OK」を押すと、歯車の輪郭が確定します。

② パッドで厚みをつけて立体にする
ここで大事なポイント。歯車機能が作るのは、まだ厚みのない歯形の輪郭(線)です。これを前回も使ったパッド(押し出し)で立体にします。歯車の厚み(歯幅)は、今回は5mmにします。

ここでつまずく人がいちばん多いところです。パッドを押す前に、ツリーで歯形(InvoluteGear)を選んでおきます。歯車機能が作ったのは線の輪郭なので、「どの輪郭を押し出すのか」をFreeCADに教えないと何も起きません。選べているかどうかは、ツリーの文字が青く反転しているかで判断できます。

押すとパラメーターの画面が開き、緑色で「これから足される立体」がその場に表示されます。長さの欄に入れた5mmが、そのまま歯車の厚み——歯幅です。歯幅は、かみ合わせの計算には出てきませんが、歯が折れずに力を伝えられるかを決める大事な寸法です。小さなグリッパーなら3〜4mm、力がかかる駆動輪なら6mm以上、が目安になります。

③ 軸穴をあけて完成
最後に、軸を通すための軸穴をあけます。歯車の上面に中心と一致した円(Ø4mm)を描き、ポケットで下まで貫通させます。これで1枚の歯車が完成です。
穴あけは3手です。順に見ていきます。

まず歯車の上面をクリックします。選ばれた面は水色になります。この状態で「新しいスケッチ」を押すと、その面の上に貼り付いたスケッチが始まります。面を選ばずに始めると、歯車とは関係のない平面に円を描くことになり、ポケットしても穴があきません。

次に、その面の上にØ4mmの円を1つ描きます。ここでの要点は寸法より中心の位置です。円の中心を原点に一致させておくと、歯車の中心とぴたりそろいます。目分量で真ん中に置いただけだと、わずかにずれた軸穴になり、回したときに歯車が首を振って——かみ合いが1回転のうちで強くなったり弱くなったりします。

最後にポケットで下へ削ります。タイプを「貫通」にしておくと、歯幅を何mmに変えても必ず裏まで抜けます。深さを数字で指定してしまうと、あとで歯幅を厚くしたときに穴が途中で止まる——寸法ではなく条件で指定するのが、直しても壊れない設計のコツです。画面の赤い筒が、これから削り取られる部分です。


真上から見ると、歯車が回転する部品として成立しているかがひと目でわかります。見るべきは2つ。歯が等間隔に12枚並んでいること、そして軸穴が中心にあることです。この向きで見て軸穴が少しでも偏っていたら、スケッチの中心拘束が抜けています。印刷する前に、必ずこの角度で確認しておきましょう。
同じ手順で、歯数だけを24に変えれば、大ギアもすぐに作れます。モジュールと圧力角は同じ2mm・20°のままにするのを忘れないでください——そろっていないとかみ合いません。これで本文ペア(ピニオンz12・大ギアz24)の2枚がそろいました。

歯数のちがいが「減速比」になる
なぜ、わざわざ歯数のちがう2枚を組み合わせるのでしょうか。それは回転の速さと力(トルク)を変えられるからです。歯数の比を減速比と呼び、次の式で表します。
減速比 i = z2 ÷ z1 = 24 ÷ 12 = 2
これは「ピニオンが2回まわると、大ギアは1回しかまわらない」という意味です。回転の速さは1/2に落ちますが、そのぶん力(トルク)は2倍になります。モーターの速くて弱い回転を、ゆっくりで力強い回転に変える——これが「減速」です。

ロボットの車輪を考えてみましょう。モーターはとても速く回りますが、そのままでは力が足りず、重い車体を押し出せません。あいだに歯車をはさんで減速すると、ゆっくりでも力強く、確実に車輪を回せるようになります。減速比をいくつにするかは、ロボットの「速さ」と「力」のバランスを決める、設計者の大事な判断です。
かみ合わせと干渉チェック——中心距離が命
さて、ここからが歯車設計の本当の山場です。2枚の歯車を、計算した中心距離36mmで並べてみます。ただし、ただ並べるだけでは歯と歯がぶつかってしまいます。片方を半ピッチ(歯half個ぶん)だけ回して、歯の山と相手の谷を合わせる必要があります。正しく位相を合わせると、歯がぴったりかみ合います。

ここで「干渉チェック」の出番です。前回 #06 でも使った考え方——2つの部品の「重なっている部分の体積」を測る方法です。正しくかみ合っていれば、歯どうしはぶつからず、重なりの体積はほぼ0になります。実際にFreeCADで測ると、中心距離36mmのときの干渉は0.0015mm³——ほぼ0で、正しくかみ合っている証拠です。
では、中心距離を間違えるとどうなるでしょうか。試しに1mm近づけて35mmにしてみます。すると——

歯と歯が食い込んでしまいました。FreeCADで重なりの体積を測ると14.78mm³——明らかに0より大きく、干渉が起きています。この状態で印刷して組むと、歯車は回らないか、無理に回せば歯が割れます。実際のFreeCAD上で、この食い込みを赤く表示して確かめたのが次の図です。

これが「中心距離が命」と言われる理由です。歯車を設計したら、必ず正しい中心距離でかみ合うか・干渉しないかを、目ではなく数値で確かめてから印刷しましょう。逆に、軸の穴の位置さえ正確に36mmで作れば、あとは歯車がちゃんと仕事をしてくれます。
今回の課題:グリッパー用ギアペアを設計する
いよいよ第2部のゴール、グリッパー(物をつかむ手)に向けた部品です。グリッパーは、左右2本の爪が同時に開いたり閉じたりして物をつかみます。片方の爪をサーボモーターで動かしたとき、もう片方の爪も同じだけ反対向きに動くようにするのが、今回の歯車ペアの役割です。
本文の減速ペアが「速さと力を変える」歯車だったのに対し、こちらは「左右の動きを同期させる」歯車です。役割がちがうので、設計も変わります。左右が同じだけ動くように、2枚とも同じ歯数にします(減速比 1:1)。

課題
グリッパーの左右の爪を同期させるギアペアを設計しましょう。条件は次のとおりです。本文で学んだ手順(インボリュート歯車→パッド→軸穴)でそのまま作れます。
- モジュール 1.5・圧力角 20°(2枚とも共通)。グリッパーは小さいので、本文より少し小さめのモジュールにします。
- 歯数は2枚とも14(同歯数=減速比1:1)。左右の爪が同じ速さで開閉します。
- 歯幅3.5mm。軸穴は、片方をØ4.8mm(サーボ出力軸まわり)、もう片方をØ4.6mm(アイドラ軸)に。
- 中心距離を計算して、2枚がかみ合うことを確かめる。
まず中心距離を自分で計算してみましょう。同歯数なので CD=(14+14)×1.5÷2。答えが出たら、その距離で2枚を並べて、半ピッチずらしてかみ合わせ、干渉が0になることを確認します。

解答・設計のヒント(クリックで開く)
決めることは3つだけです——①どれだけ離すか(中心距離)、②どれだけ回して置くか(位相)、③本当にかみ合っているか(重なりの体積)。①と②は計算で出ますし、③はFreeCADが数字で答えてくれます。
中心距離の計算
CD =(z1 + z2)× m ÷ 2 =(14 + 14)× 1.5 ÷ 2 = 21mm。同歯数のときは、2つの軸を歯数×モジュール(14×1.5)だけ離せばよい、と覚えてもかまいません。

この21mmは、2枚のピッチ円がちょうど接する距離です。ピッチ円は歯車の「見えない本体」——ここが接していれば、歯はすべることなく転がるように動きます。一方、歯先円はØ24が2枚で24mmあり、中心距離21mmより3mm大きい。つまり歯先どうしは必ずどこかで重なるので、そのままでは組めません。そこで次の位相合わせが必要になります。
作り方
- 本文と同じ手順:インボリュート歯車(歯数14・モジュール1.5・圧力角20°)→ パッド3.5mm → 軸穴をポケット。
- 2枚目は歯数も同じ14。軸穴の直径だけ、サーボ側Ø4.8/アイドラ側Ø4.6に変える。
- ピッチ円は d=1.5×14=21mm、歯先円は d+2m=24mm。外径は約24mmの小さな歯車になります。
かみ合いの確認:中心距離21mmで2枚を並べ、片方を半ピッチ(360÷14÷2≈12.9°)回して山と谷を合わせます。FreeCADで重なりの体積を測ると0になり、正しくかみ合うことが数値で確認できます(今回の設計では干渉0.0mm³でした)。
どれだけ回すと合うのか、実際に測ってみました。位相を0°から1ピッチ(25.71°)まで変えながら重なりの体積を測ると、半ピッチ(12.86°)だけが0.00mm³で、それ以外はどこかが食い込みます。そのまま並べた0°では24.63mm³も重なっていて、印刷しても組めません。

中心距離のほうも、ずらすとどうなるか見ておきます。20.0mm(1mm近い)では8.78mm³食い込み、固くて回りません。逆に21.5mm・22.0mmは重なり0ですが、これは安心してよい0ではありません。歯が浅くしか噛まないぶんガタが出て、力をかけると歯飛びします。重なりが0になった中で、いちばん近い値——それが計算どおりの21.0mmです。

同期のしくみ:かみ合った2枚は必ず逆向きに回ります。右の爪を歯車に固定し、左の爪をもう一方の歯車に固定すれば、片方を閉じる向きに回したとき、もう片方も同じだけ閉じる向きに動きます。これがグリッパーが左右対称に開閉する原理です。

歯数が同じ(1:1)だからこそ、回る量まで左右で同じになります。もし歯数がちがえば、片方だけ大きく開いて物を斜めに押してしまいます。「速さや力を変えたい」なら歯数を変える、「左右をそろえたい」なら歯数をそろえる——目的で歯数を決めるのがコツです。
つまずきポイント

- 歯車どうしがかみ合わない:モジュールか圧力角がそろっていないのが大半です。2枚とも同じモジュール・同じ圧力角(20°)か必ず確認しましょう。歯数はちがっていてかまいません。
- 歯形をパッドできない:歯車機能が作るのは「線(ワイヤ)」です。歯車の輪郭を選んでからパッドを実行してください。Bodyの中に歯車が入っているかもツリーで確認します。
- 並べたら歯がぶつかる:位相(回転角)が合っていません。従動側を半ピッチ(360÷歯数÷2 度)回して、山と谷を合わせます。
- 印刷したら歯車が固くて回らない:中心距離がわずかに近い(干渉)か、軸穴がきつい可能性。中心距離を0.1〜0.2mm広げるか、軸穴を少し大きくします。前回の「すき間」の考え方と同じです。
- 逆にガタガタで歯飛びする:中心距離が離れすぎています。計算どおりの値に戻しましょう。
- 軸穴が歯車の中心からずれる:軸穴のスケッチで、円の中心を原点(歯車の中心)に拘束し忘れています。中心を一致拘束してから寸法を入れます。
まとめ
- 歯車の設計は3つの円(ピッチ円・歯先円・歯元円)とモジュールで決まる。主役はピッチ円。
- ピッチ円 d = モジュール m × 歯数 z。モジュールが歯の大きさを決める。
- かみ合わせるにはモジュールと圧力角をそろえる。歯数はちがってよい。
- 中心距離 CD =(z1+z2)× m ÷ 2。2つのピッチ円が接する距離。軸の位置はこれで決まる。
- 歯数の比が減速比 i = z2÷z1。回転が遅くなるぶん、力(トルク)が強くなる。
- FreeCADはインボリュート歯車が標準機能。決めるのはモジュールと歯数。パッドで立体化して軸穴をあける。
- 印刷の前に、正しい中心距離でかみ合うか・干渉しないかを数値で確かめる。中心距離が命。
次回 #08 は、この歯車を使ってグリッパーの爪(リンク機構)を設計します。今回作ったギアペアに爪をつなぎ、サーボモーターひとつで左右の爪がパクッと閉じる——ロボットが初めて「物をつかむ」瞬間に近づきます。
【応用のヒント】① 減速比を大きくしたい(もっと力がほしい)ときは、大ギアの歯数を36や48に増やしてみましょう。中心距離がどう変わるか、計算してから確かめてください。② モジュールを2→1.5に下げると歯車は小さくなりますが、歯も小さくなり3Dプリンタで歯が崩れやすくなります。自分のプリンタで「歯がきれいに出る最小のモジュール」を一度試しておくと、これからの歯車設計で役に立ちます。③ 3枚目の歯車(アイドラ)をあいだにはさむと、回転の向きを変えずに距離をかせげます。どんなときに便利か考えてみましょう。
部品ファイル
この記事で作った歯車4枚——本文の減速ペア(ピニオンz12・大ギアz24)と、課題のグリッパー用ギアペア(Z14×2)の FreeCAD ファイルをまとめて置いておきます。中を開いてツリーの履歴をたどると、インボリュート歯車→パッド→軸穴の順で作ったことが分かります。