MOSFETでモーターを回す ── 電圧であやつるパワーの主役
#10のトランジスタ(2SC1815)が流せる電流は最大150mAでした。ところが、模型用のモーターは回しはじめに1A(=1000mA)を超える電流を欲しがります。完全に役者不足です。そこで登場するのが今回のMOSFET(モスエフイーティー、またはモスフェット)。トランジスタの親戚ですが、電流ではなく電圧で弁を開け閉めするのが最大の特徴で、大きな電流を扱う場面ではほぼ必ずこの部品が使われています。モーター、電源回路、電気自動車——パワーの世界の主役です。

1. MOSFETのしくみ ── 電圧で開く弁
MOSFETにも足が3本あります。名前はゲート(G)・ドレイン(D)・ソース(S)。トランジスタと役割を対応させると、ベース→ゲート、コレクタ→ドレイン、エミッタ→ソースです。本流はドレインからソースへ流れ、それを差配するのがゲート、という分担は#10とそっくりです。

違うのはゲートの構造です。図の右側を見てください。ゲートは、金属の板(Metal)・ガラス質の酸化膜(Oxide)・半導体(Semiconductor)の3層を重ねた作りになっています。この頭文字をつなげたのがMOSという名前の由来です。注目してほしいのは、まんなかの酸化膜が絶縁体だということ。つまりゲートと本体のあいだは電気的につながっておらず、ゲートに電流は流れません。
では、どうやって弁を開けるのか。ゲートに電圧をかけるのです。ゲートがプラスの電圧になると、その電気的な力(電界)に引き寄せられて、半導体の表面にマイナスの電子が集まってきます。集まった電子が、ドレインからソースへ続く電気の通り道になります。電圧を取り除けば電子は散って道は消える。電界の効果で道を作るので、この種の部品をFET=電界効果トランジスタと呼びます。MOSFETの正式名は「MOS構造の電界効果トランジスタ」というわけです。

MOSFETにはもうひとつ強みがあります。ONになったときの抵抗(ON抵抗)がとても小さいのです。たとえば今回使う2SK4017のON抵抗は約0.1Ω。1Aの電流を流したときに部品で発生する熱は、#04で出てきた電力の式から P=I²R=1²×0.1=0.1W しかありません。大きな電流を流しても熱くなりにくい——これが、パワーの世界でMOSFETが選ばれる理由です。
2. MOSFETの仲間たち ── NチャネルとPチャネル
MOSFETにも2つの極性があります。Nチャネル型とPチャネル型です。

いま説明した「電子の道ができるタイプ」がNチャネル型で、トランジスタのNPN型に相当します。Pチャネル型はその裏返しで、ゲートをマイナス側に振ると道が開きます。記号では、まんなかの矢印の向きで見分けます。性能と値段のバランスが良いのはNチャネル型なので、電子工作ではまずNチャネルだけ覚えれば十分です。日本の型番では2SK〜がNチャネル、2SJ〜がPチャネルを表します。
この講座で使うのは2SK4017です。耐えられる電圧は60V、流せる電流は5Aと、モーターを回すには十分すぎる体力があります。そしてもうひとつ大事な特徴が、3V程度の低いゲート電圧でもしっかりONになる「ロジックレベル」品だということです。MOSFETの中には10V近いゲート電圧を要求するものも多く、電池2本やマイコンで使うときは、データシートでこの点を確認して選びます。
3. 使い方 ── モーターをオン・オフする
MOSFETの代表的な使い方が、図のようにモーターなどの大物を−側でオン・オフするスイッチ回路です(負荷の下流にスイッチを置くので、ローサイドスイッチと呼びます)。

ゲートには電流が流れないので、#10で必須だったベース抵抗のような電流制限は要りません。ゲート線をつなぐ=電圧をかけるだけでONになります。その代わりに2つ、見慣れない部品が入っています。
ひとつはゲートとソースのあいだの10kΩです。これはプルダウン抵抗といって、ゲート線を外したときにゲートを確実に0Vへ引き下げるための抵抗です。理由は次の章で説明します。
もうひとつが、モーターと並列に入っているダイオードです。#09の最後に「コイルと組み合わせる話はまたいずれ」と書きましたが、ここで回収します。モーターの中身は電線をぐるぐる巻いたコイルで、コイルには「流れている電流を流れ続けさせようとする」性質があります。スイッチを切った瞬間、行き場を失った電流が押し寄せて、モーターの端子には電源電圧よりはるかに高い電圧が一瞬発生します。これを逆起電力といい、その大きさは電流の変化の速さに比例します(V=L×ΔI/Δt。Lはコイルの性質を表す量で、インダクタンスといいます)。3Vの回路でも数十Vに達することがあり、MOSFETを壊すには十分です。そこでダイオードを図の向きに入れておくと、ふだんは逆方向なので何もせず、スイッチを切った瞬間だけ電流の逃げ道として働いてくれます。この役目のダイオードを還流ダイオードと呼びます。

4. ここに注意 ── 静電気・ゲート・逆起電力
MOSFETのつまずきポイントは3つです。
(1) 静電気に弱い
ゲートの酸化膜は、ナノメートル級という途方もない薄さです。薄いほど弱い電圧で弁を動かせるのですが、その代償として、静電気の数千Vには耐えられません。冬にドアノブでパチッとくる、あの電気がゲートにかかると、絶縁膜が破れてMOSFETは壊れます。さわる前に机の脚など金属に触れて、体の静電気を逃がしてから扱いましょう。

(2) ゲートを浮かせない
どこにもつながっていないゲートは、電圧が決まらないふらふらの状態になります。電流が流れ込まないぶん、まわりのノイズをわずかに拾っただけで電圧が変わり、回路が勝手にONになったりOFFになったりします。先ほどの10kΩのプルダウン抵抗はこのための保険で、ゲート線を抜いているあいだもゲートを0Vにつなぎ止めて、確実にOFFを保ちます。
(3) コイルには還流ダイオードを
モーター・リレー・電磁石など、中身がコイルの部品をオン・オフするときは、還流ダイオードを必ず並列に入れます。入れ忘れると、最初の数回は動いても、逆起電力が当たるたびにMOSFETが痛めつけられ、ある日突然壊れます。「コイルを切るときは逃げ道を作る」と覚えてください。
5. 確かめてみよう ── ゲート線1本でモーターを支配する
それでは、本当に「電圧だけ」でモーターを回せるのか確かめましょう。使うのは電池ボックス(単3×2=3V)、MOSFET(2SK4017)、10kΩの抵抗器、ダイオード(1N4007)、模型用モーター(FA-130)です。

MOSFETは刻印面を手前に向けて、G・D・Sの足を列12・13・14に差します。モーターの+側は+のレールへ、−側は緑のジャンパ線を経由してドレイン(列13)へ。ソース(列14)は−のレールへ落とします。ダイオードは銀色の帯(カソード)を+側に向けてモーターと並列に。10kΩはゲートの列12と−のレールのあいだに入れます。そして主役が、+のレールから列12へ差す金色のゲート線です。
金色のゲート線を差すとモーターが勢いよく回り、抜くと止まります。#10のLEDと同じ抜き差しですが、流れている電流の桁がまるで違います。FA-130は回しはじめに2A近い電流を要求します。2SC1815なら定格の10倍以上で即死する大電流です。
では、その2Aを支配しているゲート側には何mA流れているのか。ゲート線を差したとき、10kΩのプルダウン抵抗には I=3V÷10kΩ=0.3mA が流れます。しかしこれはプルダウン抵抗を通って−へ抜ける電流で、ゲートそのものに流れ込む電流はほぼゼロです。#10では0.23mAで2.7mAを支配しました。今回は、ほぼゼロの電流で2000mAを支配しています。「電圧で開ける弁」の威力を、モーターの回る音で体感してください。

6. まとめと次のステップ
MOSFETは、ゲートにかける電圧でドレイン→ソースの大電流を開け閉めする部品です。ゲートは酸化膜で絶縁されているので電流はほぼ流れず、ON抵抗が小さいので大電流でも熱くなりにくい。一方で静電気に弱く、ゲートを浮かせてはいけない。そしてモーターのようなコイルの相手には還流ダイオードを添える。トランジスタが信号の世界の大黒柱なら、MOSFETはパワーの世界の大黒柱です。
これで、抵抗器からMOSFETまで、主要な部品がひととおり手元に揃いました。次の記事では、部品から少し視点を引いて、回路全体を支える「電源とグランド」を扱います。電池・ACアダプタ・USBの違い、そしてなぜ回路の図面はGNDを基準に描くのか。回路図が一気に読みやすくなる回です。
発展・応用アイデア
もっと知りたい人へ、3つの寄り道です。ひとつ目は「PWM制御」。今回はモーターを全力かゼロかで切り替えましたが、マイコンを使って1秒間に数千回の速さでオン・オフをくり返すと、オンの時間の割合でモーターの速さを自由に変えられます。ラジコンやドローンのモーター制御はみなこの方式で、MOSFETの「電圧だけで素早く切り替えられる」特技が活きる使い方です。ふたつ目は「Hブリッジ」。MOSFETを4個、Hの字に組むと、モーターに流す電流の向きを切り替えられるようになり、正転も逆転も自在になります。ロボットのタイヤ駆動の定番回路で、この働きを1チップに収めたモータードライバICも売られています。みっつ目は「SiCとGaN」。シリコンの代わりに炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)で作った新世代のMOSFETが、電気自動車やスマホの急速充電器で実用化されています。充電器が昔より小さく軽くなったのは、この新素材のおかげです。