FreeCAD × 部品設計 | #04 強度を解析する② 結果から設計を改良

前回 #03 は、手計算で答え合わせできる「ただの板」でFEMの型を覚えました。今回はいよいよ実戦です。#02で作ったTTモーターのブラケットを解析して、あのとき「なんとなく」入れた三角リブが本当に効いているのかを数値で確かめます。そして解析結果には、見た目だけでは絶対に気づけない発見が2つ待っています。

今回のお題:あのブラケット

#02で設計したブラケット。比べるために、まず「リブなし版」から解析する
#02で設計したブラケット。比べるために、まず「リブなし版」から解析する

解析するのは、#02で設計したL字のモーターブラケットです。縦の板にモーターをねじ止めして、上のフランジでシャシーに取り付ける、あの部品です。リブの効果を知りたいので、比べる相手が要ります。そこで今回は「リブなし版」→解析→「リブあり版」→解析の順で、2回解析して比較します。

どの向きの力で解析する?

解析の前に、ひとつだけ頭を使うところがあります。この部品には、実際どんな力がかかるのか?ここを雑に決めると、いくらFEMが正確でも「現実と関係ない問題」を解くことになってしまいます。

縦方向は板がつっぱるので元々頑丈。効くのは横方向=旋回時のこじれ
縦方向は板がつっぱるので元々頑丈。効くのは横方向=旋回時のこじれ

まず思いつくのは車重です。ロボットの重さがタイヤから車軸、モーター、ボルトを通ってブラケットにかかります。でもこの向きの力に対して、縦の板は「つっぱり棒」の状態。板は曲げにはひ弱でも、面内方向(つっぱる方向)には非常に強いのです。実際に縦向き5Nで解析してみると、変位はたった0.0007mmでした。問題になりません。

効くのは横向きの力です。その場で旋回するとき、タイヤは横にこすれて、ブラケットを横に倒そうとする力(こじれ)が生まれます。縦板にとってこれは曲げの方向——つまり、いちばん苦手な方向です。今回は余裕を見て横向き5N(約500gのおもりで横に押すくらい)で解析します。

リブなし版を解析する

手順は前回の8ステップとまったく同じ型です:WB切替→解析コンテナ→ソルバー→材料→固定→力→メッシュ→実行。材料も同じPLA-Genericなので、前回と違う設定だけ説明します。

固定する面:シャシーに取り付く面

固定拘束。フランジの上面(シャシーにねじ止めされる面)を固定する
固定拘束。フランジの上面(シャシーにねじ止めされる面)を固定する

固定拘束で選ぶのは、フランジの上面です。実物ではこの面がシャシーにぴったり押し付けられてねじ止めされるので、「動かない面」として扱います。

コラム:固定は「面」でいいの? ボルト穴じゃないの?

鋭い人は気づいたかもしれません。フランジがシャシーに固定されるのも、結局はM3ボルト2本です。だったら固定拘束も、面ではなくシャシー用のボルト穴にかけるべきでは?——実は、どちらも「近似」です。

  • 面固定=「ボルトで締め付けられて、面全体が密着して動かない」という仮定。ねじ締結面の定番の第一近似です。実際よりほんの少しかたく出ます。
  • 穴固定=「ボルト2本だけが支える」という仮定。シャシー面との接触を無視するので、フランジが自由に反れて、実際よりやわらかく出ます。

実際にシャシー穴2つの固定に変えて同じ解析をすると、リブなしの変位は0.083mm→0.171mm(約2倍)。しかも最大応力の場所が、モーター穴のふちからシャシー穴のふち(約4.3MPa)へ移ります。本当の答えはこの2つの中間にあります(接触やボルトの締め付けまで入れた解析は、ぐっと上級者向けになります)。

ここで覚えてほしいのはこれです。FEMの答えは「どこを固定し、どこに力をかけるか」という仮定(境界条件)しだいで変わる。だから前回、答え合わせのできる問題で道具を検証してから使ったのです。この記事では定番の第一近似=面固定で進めます。安心してほしいのは、今回の主役であるリブの効果は固定の取り方によらず成立すること——穴固定で計算しても、変位はリブで半分以下になります。

力をかける面:モーターの取付穴

力の拘束。モーター取付穴2つの内面を選び、加力5N・方向は縦板の面で指定
力の拘束。モーター取付穴2つの内面を選び、加力5N・方向は縦板の面で指定

横向きのこじれは、モーターからボルトを通じてM3取付穴2つに伝わります。そこで力の拘束では穴の内面を2つとも選び、加力を5Nにします(2つの穴で合計5Nになります)。向きの指定にはまたクセがあって、穴のような曲面を選んだままだと変な方向になるので、「方向」の欄で縦板の広い面をクリックします。「選んだ面に垂直」という意味になり、ちょうど横向き=板を倒す方向の矢印になります。

メッシュ:今回は2mm

Gmshメッシュ。最大サイズ2mm・要素の次数2nd
Gmshメッシュ。最大サイズ2mm・要素の次数2nd

メッシュは最大2mm・次数2nd。前回の板より形が複雑で、穴のまわりの細かい変化を拾いたいので、少しだけ細かくしました。あとは前回どおり、書き出し→CalculiX実行。数秒で終わります。

結果①:応力は「穴のふち」に集中していた

フォンミーゼス応力。最大は上のモーター取付穴のふち・約2.5MPa
フォンミーゼス応力。最大は上のモーター取付穴のふち・約2.5MPa

フォンミーゼス応力を表示すると、おもしろい結果が出ました。赤いのは板全体ではなく、上のモーター取付穴のふち、ピンポイント。最大値は約2.5MPaです。力をかけたのは穴2つなのに、苦しいのは上の穴だけ——フランジ(固定面)に近い上の穴のほうが、てこの支点側になって負担が大きいのです。

このように、穴や角のような「形が急に変わる場所」に応力がピンポイントで集まる現象を応力集中と呼びます。実際の部品が壊れるときも、たいてい壊れ始めるのはこういう場所です。ちなみにPLAが壊れる目安はおよそ50MPa前後。2.5MPaなら強度的にはまだ余裕たっぷりです。

結果②:全体が0.083mm傾く

変位の大きさ(変形を50倍に誇張)。グレーの輪郭が変形前の位置。最大0.083mm
変位の大きさ(変形を50倍に誇張)。グレーの輪郭が変形前の位置。最大0.083mm

変位の大きさを見ると、ブラケット全体が横に傾いているのが分かります。図は変形を50倍に誇張した表示で、グレーの輪郭が変形前の位置です。最大変位は0.083mm。壊れる心配はないけれど、モーターの軸が傾けばタイヤも傾きます。足回りがふにゃふにゃしたロボットはまっすぐ走ってくれません。今回の改良の主役は、強度よりもこの剛性(たわみにくさ)です。

リブを入れて、もう一度

ここで#02の完成形——両端の三角リブを入れた形に戻して、まったく同じ条件(同じ固定・同じ5N・同じメッシュ設定)でもう一度解析します。形を変えたらメッシュの「適用」を押して切り直し、書き出し→実行も再実行。これを忘れると古い形のままの結果が出ます。

リブあり版のフォンミーゼス応力。いちばん赤い場所が穴のふちからリブの下端へ移った
リブあり版のフォンミーゼス応力。いちばん赤い場所が穴のふちからリブの下端へ移った

応力の図を見て、まず気づくことがあります。いちばん赤い場所が引っ越しているのです。リブなしでは上の穴のふちだった最大応力の場所が、リブあり版ではリブの下端に移りました。最大値は約2.5MPa→約2.2MPaと少し下がっています。この「引っ越し」の意味はあとで考えます。

リブあり版の変位(同じ50倍表示)。傾きが目に見えて小さい。最大0.028mm
リブあり版の変位(同じ50倍表示)。傾きが目に見えて小さい。最大0.028mm

変位は劇的です。同じ50倍誇張なのに、グレーの輪郭とのずれが明らかに小さい。最大変位は0.028mm——リブなしの0.083mmから約3分の1になりました。

数値で比較する

リブの効果まとめ。変位は約1/3・最大応力12%減・体積は10.6%増
リブの効果まとめ。変位は約1/3・最大応力12%減・体積は10.6%増

結果を並べます。ここで大事な注意をひとつ。結果の色だけで2つの解析を見比べてはいけません。色の赤〜青は図ごとに「その解析の最大値〜最小値」に割り当てられるので、変位が3分の1になったリブあり版でも、いちばん動く場所はやっぱり真っ赤に表示されます。比べるときは色ではなく最大値の数字を見るのが鉄則です。

  • 変位:0.083mm → 0.028mm(約3分の1)。リブは剛性に劇的に効く。
  • 最大応力:2.48MPa → 2.17MPa(12%減)。下がるが、変位ほどではない。
  • 体積:4,777mm³ → 5,284mm³(+10.6%)。材料と印刷時間は1割増える。

材料1割で剛性3倍。前回の課題で見た「板を2倍厚くする(材料2倍)」と比べても、リブがいかにコスパの良い補強かが数字で分かります。「なんとなく入れたリブ」が、今日から「変位を3分の1にするリブ」になりました。

応力の集中は、消えずに「移動する」

さっきの「引っ越し」の話です。リブを入れても、応力集中は消えませんでした。場所が穴のふちからリブの下端へ移っただけです。理由はこう考えられます。リブは縦板を、上から半分くらいの高さまでしか支えていません。リブのある区間はがっちり固まる。するとその支えが終わる境目に、曲げの負担が集まるのです。「補強の端」は新しい弱点になりやすい——これは設計の大事な感覚です。もしリブの下端側で壊れる兆候が出たら、リブを下まで伸ばす・端を斜めに逃がすといった次の一手が打てます。解析→弱点を見つける→形を直す→また解析。このループが「結果から設計を改良する」の正体です。

つまずきポイント

  • 力の矢印が変な方向を向く:穴(曲面)を選んだままだと向きが定まりません。「方向」の欄で平らな面をクリックして「その面に垂直」で指定します。
  • 形を変えたのに結果が変わらない:メッシュの切り直し忘れです。形状を編集したらメッシュの「適用」→書き出し→実行をワンセットでやり直します。
  • リブなし版とリブあり版がごちゃごちゃになる:文書(ファイル)を分けるのが安全です。1つの文書で形を編集し直すより、別名保存してから形を変えるほうが混乱しません。
  • 2つの結果を色で見比べてしまう:色のスケールは図ごとに別物です。比較は必ず最大値の数字で。
  • 最大応力の場所が見つからない:視点を回して部品の裏側ものぞいてください。今回の穴ふちの赤も、フランジの陰になって上からの視点では見えません。

今回の課題:角を丸めたら強くなる?

#02の応用のヒントで「角がとがったところは力が集中しやすい場所です。フィレットで丸めるとどうなるか、#04の解析で確かめます」と予告しました。回収の時間です。リブなし版の内角(縦板とフランジの境目)にR3のフィレットを入れて、同じ条件(横5N)で解析してみてください。「角を丸めると応力集中がやわらぐ」とよく言われますが——さて、変位と最大応力はどうなるでしょうか。予想してから解析を。

課題の形。リブなし版に戻して、内角だけをR3のフィレットで丸める
課題の形。リブなし版に戻して、内角だけをR3のフィレットで丸める
解答を見る(結果と種明かし)

結果は意外なものになります。変位は0.083mm→0.073mm(12%減)。リブの「3分の1」に比べると、ささやかな効果です。そして最大応力は2.48MPa→2.59MPaと、むしろ少し増えます

フィレット版の応力。フィレットに沿って赤みは出るが、最大応力は穴のふちのまま
フィレット版の応力。フィレットに沿って赤みは出るが、最大応力は穴のふちのまま

種明かし。フィレットが効くのは、いちばん苦しい場所が角にあるときです。ところが今回の横荷重では、最大応力は内角ではなく穴のふちにありました。苦しくない場所をいくら丸めても、最大値は下がりません(フィレットで断面の形が変わったぶん、応力の流れが変わって最大値が少し動くことはあります——今回はそれが微増でした)。

つまり教訓はこうです。「丸めれば強くなる」「太くすれば強くなる」をやみくもに信じない。先に解析で「どこが・どの向きに苦しいのか」を見てから、効く場所に効く形を足す。同じ材料の増分でも、リブ(+10.6%で変位1/3)とフィレット(変位12%減)では効果がまるで違いました。力の流れを見てから手を打つ——これがFEMを使う本当の理由です。

まとめ

  • 解析の前に「実際にかかる力はどれか」を考える。板は面内方向(つっぱり)に強く、曲げに弱い。今回効くのは旋回のこじれ=横向きの力
  • リブの効果:変位0.083→0.028mm(約1/3)・最大応力12%減・材料+10.6%。少ない材料で剛性に劇的に効く。
  • 穴や角に力がピンポイントで集まる応力集中。壊れるのはたいていこういう場所から。
  • 応力集中は補強しても消えずに移動する。「補強の端」が新しい弱点になりやすい。
  • 解析結果の比較は色ではなく最大値の数字で。色のスケールは図ごとに別物。
  • フィレットは万能ではない。苦しい場所が角にあるときに効く。やみくもに丸めず、力の流れを見てから補強する。
  • 固定や力のかけ方(境界条件)はモデル化の「仮定」。取り方で答えが変わるので、自分が何を仮定したのかを意識する。
  • 解析→弱点発見→形を直す→再解析のループが「結果から設計を改良する」ということ。

これで第2部の解析編はひと区切りです。次回 #05 からはアセンブリ——設計した部品どうしを画面の上で組み合わせて、ぶつかりや寸法の矛盾を組む前に見つける方法に進みます。

【応用のヒント】① 力を10N・20Nに増やして解析してみましょう。変位も応力もきれいに比例します。では何Nで「PLAの目安50MPa」に届くでしょうか? ② リブの形を自分で変えてみましょう。下端をもっと下まで伸ばしたら、応力集中はどこへ移動するでしょうか。③ #02で入れた肉抜きスロットを2倍に広げて解析してみましょう。材料は減らしつつ、変位がどこまで増えるか——「軽さと剛性のトレードオフ」を自分の手で探検できます。


次回 #05 アセンブリ入門 は準備中です。
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