FreeCAD × 基本操作 | #08 STL書き出しと3Dプリント

第1部もいよいよ最終回です。スケッチを描いて(#01)、押し出して・穴をあけて(#02)、回して(#03)、磨いて(#04)、量産して(#05)、曲線も使えるようになり(#06)、BodyとPartのしくみも分かりました(#07)。最後の仕上げは、作ったデータをSTLファイルに書き出して、3Dプリントで実物にするところまでです。画面の中の形が手のひらに乗った瞬間は、何度やってもうれしいものです。

今回作る「名前入りキーホルダー」

題材は、第1部で覚えた操作だけで作れる名前入りキーホルダーです。サイズはタグ部分が 50×20mm・厚さ4mm。左にキーリングを通す穴(直径5mm)をあけ、四隅を半径6mmのフィレットで丸めます。

今回作る「名前入りキーホルダー」
今回作る「名前入りキーホルダー」
真上から見たところ。左の穴にキーリングを通す(タグ50×20×4mm・文字の厚み1.2mm)
真上から見たところ。左の穴にキーリングを通す(タグ50×20×4mm・文字の厚み1.2mm)

表面の名前の文字や飾りの作り方は、章末の総合課題でじっくり挑戦します。まずは文字なしのタグを作って、STL書き出しまでの流れをひと通り覚えましょう。それだけでも立派なキーホルダーになります。

作り方は全部「おなじみ」

作る手順は、第1部でやってきたことの組み合わせです。

  • スケッチ:XY平面に 50×20mm の四角形を描いて完全拘束(#01)
  • パッド:厚さ 4mm に押し出す(#02)
  • ポケット:上面に直径 5mm の円を描いて貫通させ、キーリング穴にする(#02)
  • フィレット:四隅の縦のエッジ4本を半径 6mm で丸める(#04)
ツリーを見ると、履歴は今までの操作そのまま
ツリーを見ると、履歴は今までの操作そのまま

ツリーを見てください。Pad → Pocket → Fillet と、今までの回の操作がそのまま積み重なっています。#07で学んだ「Bodyの中は作業の履歴」が、ここでも生きています。穴の位置や角の丸みを変えたくなったら、ツリーの項目をダブルクリックすればいつでも直せます。

STLファイルって何?

3Dプリントの世界で一番よく使われるファイル形式が STL です。STLは形を小さな三角形の集まり(メッシュ)で表します。平らな面はそのままでいいのですが、円や曲面は三角形では正確に表せないので、細かく分割して「近い形」にします。

STLは曲面を小さな三角形で近似する。偏差が小さいほどなめらか
STLは曲面を小さな三角形で近似する。偏差が小さいほどなめらか

どこまで細かくするかを決めるのが偏差(へんさ)という数字です。偏差が大きいと三角形が大きくてカクカクに、小さいとなめらかになる代わりにデータが重くなります。FreeCADの初期設定は 0.1mm で、キーホルダーくらいの大きさなら十分きれいです。

STLに書き出す

書き出しはとても簡単で、手順は3つだけです。

①Bodyを選ぶ → ②ファイル→エクスポート → ③STLを選んで保存
①Bodyを選ぶ → ②ファイル→エクスポート → ③STLを選んで保存

手順1:書き出す部品を選ぶ

ツリーで、書き出したいBody をクリックして選びます。ここを選ばずにエクスポートすると、中身が空のファイルになることがあるので注意してください。

手順2:ファイル → エクスポート

メニューバーの「ファイル」→「エクスポート」を選びます。保存ダイアログが開きます。

手順3:STL形式を選んで保存

ファイルの種類で 「STL Mesh (*.stl)」 を選び、名前を付けて保存します。これで完成です。もし保存したSTLの曲面がカクカクしすぎると感じたら、編集 → 設定 → インポート/エクスポート → メッシュフォーマットにある最大メッシュ偏差を小さくしてみてください(初期値 0.1mm → 0.01mm など)。

設計データが実物になるまで

STLファイルができたら、実物になるまでの流れはこうです。

FreeCAD → スライサー → 3Dプリンターの3ステップ
FreeCAD → スライサー → 3Dプリンターの3ステップ
  • FreeCAD:形をSTLファイルに書き出す(今日やったこと)
  • スライサー:STLを薄い層に輪切りにして、プリンターの動き(G-code)を計算するソフト。CuraPrusaSlicer などが無料で使えます。
  • 3Dプリンター:溶かした樹脂を1層ずつ積み重ねて、実物を作ります。キーホルダーなら30分〜1時間ほどで完成します。

自分のプリンターがなくても大丈夫です。学校の実習室や図書館、ファブ施設に置いてあることが多いですし、STLファイルを送ると印刷して郵送してくれる出力サービスもあります。STLさえ作れれば、実物にする道は何本もあります

印刷の向きとサポート材

スライサーに渡す前に、ひとつだけ知っておいてほしいことがあります。どの面を下にして印刷するかです。3Dプリンターは溶けた樹脂を下から1層ずつ積み重ねます。ということは、下に何もない宙ぶらりんの部分(オーバーハングといいます)には樹脂を置けません。そこで、スライサーは宙に浮く部分の下にサポート材という仮の柱を自動で生やします。印刷後に手で折って外すのですが、外した跡は表面が荒れますし、材料と時間もよけいにかかります。

同じキーホルダーでも、置き方しだいでサポート材が必要になる
同じキーホルダーでも、置き方しだいでサポート材が必要になる

今回のキーホルダーなら、平らで広い面を下にして寝かせるのが正解です。どの層も下の層にしっかり乗るので、サポート材はいりません。逆に立てて印刷すると、キーリング穴の上側が宙に浮いてサポート材が必要になるうえ、層の継ぎ目に力がかかって折れやすくなります。印刷の前に「どの面を下にするか」をひと呼吸考える——これだけで仕上がりがぐっと良くなります。

つまずきポイント

  • 書き出したSTLが空っぽ・スライサーで何も表示されない:エクスポートの前にBodyを選択し忘れるのが定番原因です。手順1からやり直しましょう。
  • 曲面がカクカクしている:メッシュの偏差が大きすぎます。設定の最大メッシュ偏差を小さくして書き出し直しましょう。
  • スライサーに読み込んだら大きさが変:STLファイルには単位の情報が入っていません。FreeCADはmm単位で書き出すので、スライサー側もmmで読む設定になっているか確認しましょう。
  • 細かい部分が印刷でつぶれる:3Dプリンターのノズルは約0.4mmの太さがあるので、それより細い形は再現できません。文字や溝は太め・大きめに作るのがコツです。

総合課題:デラックス名前入りキーホルダー

第1部の卒業制作です。さっきのタグをベースに、面取り・パターン・名前の文字まで全部のせたデラックス版を作ります。スケッチ(#01)、パッドとポケット(#02)、フィレットと面取り(#04)、直線状パターン(#05)、Bodyの履歴(#07)——第1部で覚えた機能の総動員です。完成したらSTLに書き出して、3Dプリントすれば世界に1つの実物になります。

総合課題の図面。名前はもちろん自分の名前でOK
総合課題の図面。名前はもちろん自分の名前でOK

まずは図面だけ見て自力で挑戦してみてください。詰まったら、下の解答を1つずつ開いて進みましょう。

解答①:タグ本体(面取りまで)

前半はチュートリアルと同じです。そこに面取り(#04)をひと手間足します。

  • タグ:XY平面に 50×20mm の四角形を完全拘束 →「パッド」で厚さ4
  • キーリング穴:上面に中心(6, 10)・直径5の円 →「ポケット」で全貫通
  • 角の丸め:四隅の縦エッジ4本を選んで「フィレット」半径6
  • ふちの面取り:上面のふちのエッジ(直線4本+角の弧4本)をCtrlキーを押しながら全部選んで「面取り」0.6キーリング穴のふちは選びません
①タグ本体。Ø5の穴・角のフィレットR6・上面のふちの面取り0.6まで
①タグ本体。Ø5の穴・角のフィレットR6・上面のふちの面取り0.6まで

ふちをほんの少し斜めに落とすだけで、印刷品が手に当たったときの感じが全然ちがいます。実物にするときに効いてくる、仕上げの定番テクニックです。

解答②:飾り穴を直線状パターンで5個

飾りのくぼみを1個だけ作って、あとは#05の直線状パターンに量産してもらいます。

  • 飾り穴:上面に中心(18, 3)・直径2の円 →「ポケット」で深さ0.8。貫通させない浅いくぼみです。
  • パターン:今作ったポケットを選んで「直線状パターン」。方向=X軸・長さ20・回数5
②飾り穴Ø2(深さ0.8)を直線状パターンで5個ならべた
②飾り穴Ø2(深さ0.8)を直線状パターンで5個ならべた

長さ20mmを5個で等分するので、穴の間隔は5mmずつ。1個直せば5個全部に反映されるのがパターンの強みでしたね。

解答③:名前の文字をのせて、STLに書き出す

最後は名前の文字です。文字の輪郭はDraftワークベンチ「シェイプストリング」で作れます。

  • 画面上のワークベンチ切替で「Draft」を選び、メニューの注釈 → シェイプストリング。文字列に名前(例:HIRO)、高さ8、フォントファイルに太字のフォント(Windowsなら C:\Windows\Fonts の中から Arial Bold など)を指定します。細い字は印刷でつぶれます。
  • できた文字を選び、左下のデータタブの「配置」→「位置」で位置を調整します。目安は x=17・y=8・z=4。z=4 でタグの上面にぴったり乗ります。
  • ワークベンチを「Part」に切り替え、文字を選んでパート → 押し出し。方向Z・長さ1.2で立体の文字になります。
  • Ctrlキーでタグ(Body)と押し出した文字の両方を選び、メニューのパート → ブーリアン → 結合。これで1つの立体になります。
③名前の凸文字をのせて完成。あとはSTLに書き出すだけ
③名前の凸文字をのせて完成。あとはSTLに書き出すだけ
上から見たところ。文字の出っぱりは1.2mm
上から見たところ。文字の出っぱりは1.2mm
課題の履歴ツリー。第1部で覚えた機能がぜんぶ入っている
課題の履歴ツリー。第1部で覚えた機能がぜんぶ入っている

仕上げにSTL書き出しです。ひとつだけ注意——選ぶのはBodyではなく、ブーリアン結合でできたオブジェクト(Fusion)です。Bodyを選ぶと文字なしのタグが書き出されてしまいます。印刷するときは、もちろん平らな底を下にして寝かせて。サポート材なしでそのまま刷れます。

まとめ:第1部、完走です!

  • STL=形を三角形メッシュで表すファイル。3Dプリントの共通言語。
  • 書き出しは①Bodyを選ぶ → ②ファイル→エクスポート → ③STLを選んで保存の3手順。
  • なめらかさは偏差で決まる。初期値0.1mmで十分、こだわるなら小さく。
  • 実物への道は FreeCAD → スライサー → 3Dプリンター の3ステップ。
  • 印刷の前にどの面を下にするかを考える。平らで広い面を下にすればサポート材いらず。宙に浮く形にはサポート材が必要になる。
  • プリンターがなくても、学校の設備や出力サービスで実物にできる。

これで第1部「基本操作」は完走です。スケッチ → 足し引き → 回転 → 仕上げ → パターン → 曲線 → Body/Part → 書き出しという、3D CADのいちばん大事な一連の流れがひと通りできるようになりました。次の第2部「部品設計の実践」では、この流れを使って、ロボコンでそのまま使えるセンサーマウントやブラケットなど、本物の部品を設計していきます。

【応用のヒント】① 凸文字の代わりにへこんだ文字もできます。ブーリアンで「結合」ではなく「カット」を選ぶと、文字の形にタグが彫れます。凸と凹、印刷して比べてみてください。② タグの形を自分流にアレンジしてみましょう。飾り穴の数を増やしたり、パターンの方向を斜めにしたり。履歴を直すだけで何度でも作り直せます。③ スライサー(Curaなど)は無料で入れられます。STLを読み込んで輪切りのプレビューを見ると、サポート材がどこに付くかも事前に確認できます。


これで第1部「基本操作」は完走です。お疲れさまでした!第2部「部品設計の実践」は準備中です。
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